あれは突然現れて、そして忽然と姿を消した
鮮明に記憶が残っているようで
ぼんやりと輪郭が霞んでも見える
そんな不思議な数日間の物語
ニューロン 3
体が燃えるように熱く、思うように頭が回らない。
体は穴だらけだったし、血を流しすぎていた。
嗚呼、俺は死ぬのか―――漠然と、そう感じた。
自分の死を意識してからというもの、頭に浮かぶのは七原のことだけだった。
まだ名前を呼ばれてないから、少なくともまだ死んでいないはずだ。
アイツは甘いところがあるから、誰かに付け入られていはしないだろうか。
不安で不安で仕方がない。
こんなことなら、七原を探しておけばよかった。
1度でいいから、七原の顔が見たかったな。
もっと七原と話がしたかったし、キスもセックスも、もっともっとしたかった。
ただ1人、自分が心から愛した奴だった―否、奴だ。
別に生への執着が強い方ではないが、今頃になって、本気で生きたいとそう思った。
七原と共に生きたいと、強く強くそう願っていたのだ。
そんなことを考えていると、意識が体から分離して、どこかへ強大な力をもって引き寄せられていった。
気がつくと、どこかの街のようなところにいた。
穴だらけ、血だらけだったはずの体はきれいに元通りになっていた。
死んだはずのクラスメイトが、目の前を歩いていた。
天国かどうかはわからないが、そこは死後の世界だった。
そこは大抵の人がイメージする天国とはかけ離れていた。
花畑だとかそんなところではなくて、本当に普通の、ありふれた街中だったのだ。
とりあえず、さっと周りを見渡す。
七原の姿を目に捉えることはなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。
七原が無事なら、それに越したことはない。
「信史。」
ふいに、とても懐かしい声を聞いた。
彼も自分も死んでいるわけだし、そこにいたとしても、なんら不思議はなかった。
が、すぐには信じられなかった。
「叔父さん・・・」
「久しぶりだな。できれば、こんなところでは会いたくなかったけどな。」
やはり、そこにいたのは尊敬してやまない叔父さんだった。
「ここからは、地上の出来事を見ることができるんだ。」
叔父さんは、噴水の中を覗いている。
ふと周りを見渡すと、同じように水面を凝視する人がたくさんいた。
ここから、地上が、七原の姿が見えるのだろうか。
ゆらめく水面に目を凝らせば、傷を負いながらもなんとか生きている七原の姿が目に入った。
川田と典子さんが一緒だ。
どうやったのかはわからないが、3人が生き残ったようだ。
とりあえず、七原が生きていることに安心した。
「時々、ここからお前のことを見てた。」
「・・・叔父さん。」
「お前は俺の影響を受けすぎだな。」
「そりゃそうだよ、叔父さんは俺の先生みたいなもんだったからさ。」
「女遊びも、ハックも、いろいろやったみたいだな。」
「・・・でも、ちゃんとした恋愛してただろ、ここ最近は。」
七原とのことが思い出される。
告白したとき、「いいよ」と言った赤く染まった顔。
初めてキスしたときの驚いたような顔と、驚くほどやわらかかった唇。
初めてセックスしたとき、とまどいつつもちゃんと俺を受け入れてくれた。
蒸気した頬、しっとりと汗ばんだ肌、いつもと違う艶めいた声。
何もかもが、他の誰よりも綺麗で、高貴で、最高だった。
初恋だった。
七原を残して、生命が果ててしまったことが、この上なく悔やまれた。
もっと生きたいと、心からそう思う。
「叔父さん、俺、もっと生きてたかったよ。」
「・・・・・方法がないわけではない。」
「生き返られるってこと?」
「イエスであり、ノーでもある。期限付きだが、向こうに行くことができないわけではない。」
「叔父さん!!!」
もう一度七原に会えるのなら、何を引き換えにしても構わない。
この顔も、声も、何もかも差し出してもいい。
たとえ姿形が変わっても、七原なら絶対俺に気付いてくれるはずだ。
「方法を教えてくれ、叔父さん。七原に会って伝えたいことがあるんだ。」
「それはいいが、難しいぞ?」
「どんなことだってやってみせるさ。」
「そうか。」
それから、来る日も来る日も情報収集に明け暮れ、いろいろな人と会い、交渉した。
そして、ついに、この日が来たのだ。
七原に、会える―――