あれは突然現れて、そして忽然と姿を消した
鮮明に記憶が残っているようで
ぼんやりと輪郭が霞んでも見える
そんな不思議な数日間の物語
ニューロン 2
「み・・・・む、ら・・」
溢れ出る涙で視界が歪み、三村の顔が見えない。
けれど、俺を強く抱く腕や、そこから伝わる温度は、紛れもなく三村だった。
聞きたいことや、言いたいことは山ほどあったけれど、それを言葉にする術を知らなかった。
互いに空虚を埋めようとするかのように、ただ、抱き締めあった。
それだけで十分だった。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
泣きじゃくる俺を宥めるように、三村は頭や背中を緩く撫でてくれていた。
「落ち着いたか?」
「ごめん、ありがとう。・・・ホンモノ、だよな?都合のいい幻とかじゃない・・・よな?」
「時間はかかっちまったけど、帰ってきたんだ。ホンモノだよ。」
「でもどうやってッ・・・俺三村の死体見たし、そんな・・・」
そうだ、見たのだ自分は。
焼ける廃墟に横たわる血だらけの三村信史を。
「まぁ、その話はまた後で。いろいろあったんだよ。」
何故か、三村の顔はひどく悲しそうだった。
「あの、三村。典子に会ってくれる?他にも紹介したいメンバーとかいるから・・・」
「オーケイ。典子サンか・・・懐かしいな。」
「典子サン、お久しぶり。城岩中のザ・サードマンって覚えてる?」
三村は、昔と少しも変わらない、少しおどけた口調でそう言った。
緊張して2人のやり取りを眺めていたが、俺も典子も思わず笑ってしまった。
三村信史っていう奴は、やっぱりすごい男だ。
「お久しぶり、三村君。今まで秋也くんを放っておいた責任、とってもらうわよ?」
「もちろん。典子サンは昔より強かになったかな?」
「煩いわよ、三村君よりはマシだと思うけど?」
3人して声をあげて笑った。
何だか、ひどく懐かしい思いとともに、寂しいような、悲しいようなそんな思いがした。
「典子、拓馬いる?」
「さっきその辺で見たわ。呼んで来ようか?」
「ううん、俺たちが行くからいいよ。じゃぁ、また。」
「三村君、秋也君をよろしく。泣かせたら許さないから。」
「了解。」
「拓馬、ちょっといい?」
「その男、誰?」
拓馬は見慣れぬ三村をじろじろと観察している。
三村はそんな視線など気にしていない様子で、こう言ってのけたのだ。
「はじめまして、七原秋也の恋人の三村信史です。お前は?」
「ちょ・・・・三村!!何言ってんだよ!!!」
「本当のことしか言ってないだろ?」
「秋也、こいつが”ミムラ”?こんなふざけた奴が?」
「あら、俺のこと知ってる?もしかして、七原から何か聞いてたりして。」
三村がこっちにちらっと視線をよこした。
そんな目されたって絶対教えるもんか。
「ま、大方お前が七原にコクった時にでも『大事な人』とかなんとか言われたんだろ?」
「おま・・・なんで。」
「この三村信史様にわからないことなんてないのだよ、青井拓馬クン?」
「俺名前言ってないのに・・・」
拓馬の言葉は、俺も同感だった。
三村は拓馬と全く面識がないのに、どうして名前がわかったんだろう。
「ところで、青井拓馬クン。そろそろ七原と2人きりにさせて欲しいんだけど?」
「三村!!」
「2人きりになんかさせるかよ。大体何なんだよ、今まで秋也のこと放っておいたくせに。今更彼氏面する気か?」
「まぁ、反論はしないし、できない。けど、こうして帰ってきた。それはずっと七原のことを想ってたからだ。」
「あーそうかよ、好きにしろ、馬鹿。」
拓馬はそう叫んで、その場を後にした。
俺はというと、三村の突然の告白に顔を赤くしたままただそこにいるだけだった。
「七原。」
三村の声のトーンが変わった。
それに、ひどく真面目な顔をしていた。
「話したいことあるんだけど。どっか2人きりになれるとこ、ないか?」
「う、ん・・・こっち。」
1人になりたい時によく籠っている、洞窟の中へ案内する。
ここに俺がいるときは、1人になりたいとわかっているから、誰かが近付くことはないだろう。
「三村・・・・話って。」
「いろんな話。俺がプログラムの後どうしてて、何があって、何で今ここにいるのか、とか。」
聞きたいと思っていた、そして多分今から話されるのだろうと予想した、話だった。
三村はそれを、ポツリ、ポツリと話し始めた。