あれは、突然現れて、そして忽然と姿を消した
鮮明に記憶が残っているようで、
ぼんやりと輪郭が霞んでも見える
そんな不思議な数日間の物語
ニューロン 1
BR2のせいで大幅に戦力を失った俺達ワイルド7は、中東の1国に潜伏していた。
仲間を増やし、戦力を回復させ、時が来るのをただ待っていた。
法的には大人と呼ばれる年齢にはなったが、大人になどなるまいと必死にもがき、
自分の生存の代償となった全ての命に償うため、腐った大人達への抵抗を続けていた。
丁度、そんな頃だった。
「秋也、客が来てる。」
「客?」
こんな所での来客なんて珍しいにも程がある。
しかも自分達は追われる身故、自然と身構えてしまう。
「ああ、客だ。東洋人の男で、そうだな・・・秋也と同じくらいの歳だと思う。」
「で、そいつは何て?」
「『七原に会わせてくれ』って言ってた。あー、あと名前は三村信史。」
三村信史。
頭の中で何度も何度もリフレインする。
凄まじいスピードで時間が駆けて行き、互いに惹かれあって、恋をした。
あの猛るような、身を焦がすような、熱い、熱い恋情。
短く、いつも整えられた、整髪料の匂いのする髪。
意志の強い目に、ニヒルな笑みをよく浮かべる薄い唇。
左耳に光るピアス。
甘い、フレグランスの香。
少し低い体温。
俺を抱く、綺麗に筋肉のついたしなやかな体。
今でも、全てを鮮明に頭の中で描くことができる。
「秋也?」
「ああ、悪い。そいつ、ピアスしてなかった?」
「左耳に1つ。」
本当の本当に、あの、三村信史なのだろうか。
答えは否だ。
頭の中ではわかっている、ありえないのだと。
けれど、ほんの少し、本当に僅かに、期待している自分もいた。
「典子に見てもらって。典子も三村を知ってる。」
「わかった。」
典子は、大切な女性だ。
それは、好きだとか、恋だとかそんな刹那な感情ではなく、
もっと大きくて、普遍的で穏やかな感情だった。
「秋也君。」
典子の声に現実に引き戻される。
「ごめん、面倒なこと頼んで。」
「秋也君、私の見間違えでなければ、あの人には三村君の面影があるわ。
まるで三村君のお兄さん・・・・ううん、三村君が成長した姿みたいなの。」
「でも、三村は・・・」
「それはわかってる。だって、私も目の前で見たもの。」
三村は死んだのだ。
それは、俺も典子も実際に見たことだった。
急激に冷えていく体を抱き締め、キスをした。
その感触は今でも覚えていた。
冷たい、血に濡れた唇の感触。
「さっぱりわけはわからないけど、あの人は三村君だと思うの。」
典子のその言葉を聞いて、わけもわからず走り出していた。
もしかしたら本当に三村かもしれぬ人物の元へ。
護衛を2人ほどつけて、遠くから自称三村信史を見る。
そこにいたのは、紛れもない三村信二だった。
見間違えるはずもない、ずっとずっと恋焦がれてきた相手なのだから。
だけど、典子が言ったようにその姿は昔と同じではなかった。
多分、今もずっと生きていたらこんな風に成長しただろう。
体の中心からわきあがってくる感情の奔流に、どうすることもできなかった。
ただ、涙が溢れた。
「秋也?」
「ごめん、大丈夫。アイツ本物だから、悪いんだけど2人きりにしてくれる?」
護衛の2人を帰し、単身で三村の元へ向かう。
近づくにつれ、はっきりとしてくる輪郭。
昔と変わらない表情を浮かべる三村が、いた。
膝が崩れ落ちて、それ以上進むことも退くこともできなかった。
そうこうしているうちに、向こうから近づいてきた。
「ただいま、七原。待たせてごめん。」
存在を確かめるかのように強く抱き締められる。
俺は、ただ、ただ、涙を流すことしかできなかったんだ。