雷神の 少し響みて さし曇り
雨も降らぬか 君を留めむ
かみなり
「三村ァ、これは?」
「ん、何?あぁ、それはこの公式使うの。」
まるでマジックのように鮮やかに問題を解いていく男をぼーっと眺める。
世間で言うところの、”彼氏”だ。
均整の取れた顔立ちに、抜群の運動神経。
そして、中学生とは到底思えないほどの知識の量。
女癖の悪ささえなけりゃ、これ以上の男はいないとさえ思う。
「七原ー、聞いてんのか?」
「え、あっ!?もちろん聞いてるって。」
「何?俺のあまりのかっこよさに見とれてた?」
「ばーか、自惚れんなよ。」
「さっさと終わらそうぜ。」
「あぁ・・」
核心を突かれて、ドキッとした。
が、とりあえずは宿題を終わらせることの方が先決である。
「よっしゃ、終わり。七原は?あと何問?」
数学の問題を解き終えたらしく、ノートを覗き込んでくる。
間近で見てもその顔は決して崩れることはない。
ほんの少し顔を赤く染めてしまった。
「もうほとんど終わってんじゃん。あとちょっとだな。」
あと残りは2,3問しかない。
終わってほしいのは山々だが、終わってほしくない気もする。
これが終われば三村は家へと帰ってしまう。
いつもならなんとも思わないのだが、今日は誰かの温もりに触れていたかった。
「『雷神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ』」
「何?和歌か何か?」
「あ、いや。何でもない・・・」
そんなことを考えていると、昔何かで読んだ和歌が口を付いて出た。
幸い、三村は歌を知らないようだし、助かった。
「『雷神の 少し響みて 降らずとも われは留らむ 妹し留めば』だろ?」
「な、三村。知って・・・・」
「雨なんか降らなくても、帰らないから安心しろよ。」
「別に帰るななんて・・・」
「往生際が悪いわヨ?それよりどうしたんだ、珍しい。」
「別に何でもない・・・」
ただ、ほんの少しだけ人肌を恋しいと思ったから。
もう少しの間、三村と同じときを共有していたいと思った。
「ま、いっか。七原が俺を求めてくれただけで嬉しいしv」
満面の笑みを浮かべ、三村は俺をぎゅーっと抱きしめる。
その心地のよい圧迫感に癒された。
別れの多いこの季節
君のぬくもりを感じていたいです―
解説。
雷神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
(雷が鳴って、雲が広がり、雨が降ってくれたなら、帰ろうとしているあなたをきっと引き止められるのに)
雷神の 少し響みて 降らずとも われは留らむ 妹し留めば
(雷が鳴らなくても、雨が降らなくても、君が引き止めてくれたなら、僕はここにいるよ)
訳:恋ノウタ -love songs to you せつなくて- より
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