釣り人は、
その釣竿を、糸を、針を、
通して世界を知覚するらしい
ならば俺は――――
釣りをする人
「三村」
「なーに、杉村クン?」
「いや、たいした話じゃないんだが・・・最近変わったな、お前。」
「そう?」
教室で七原の帰りを待っていると、杉村に話しかけられた。
杉村は揺ぎ無いアイデンティティを持って、物事を正しく把握できる奴だから話すと楽しい。
「はじめの頃とは顔つき・・・というか、全体的な雰囲気が随分変わったと思うぞ。」
他人と接する時には常に一定の距離をとっていた。
他人なんて絶対に信用するものではない、と思っていた。
あの頃は叔父さんが死んで、ある意味で人間不信だった。
「触れると火傷しそうなほどに冷たかったのが、大分溶けてきた感じだな。」
「だとしたら、溶かしたのは七原だな。」
七原と出会って、人間はこんなにも温かいものなのかと教えられた。
人の温もりを、優しさを知った。
「多分、お前は七原を通して世界をみてるんだろうな。」
そうだった。
七原というフィルターを通してみる世界は、綺麗だった。
物質的に何の変化もないはずなのに、それは確かに違っていた。
「だとしたら、俺はもう七原なしじゃ生きられないな。」
「だろうな。お前は何か守るものがないと生きていけない性質だからな。」
「・・・・気付いてたのか。」
「女癖の悪さもそのせいだろ?」
まったく杉村という男は侮れない。
だが、一瞬たりとも気を抜けない心地よい緊張感がある。
「保護対象がいないと虚勢も張れないような奴だからねぇ、俺は。」
「多分、七原もそうだと思うけどな。」
「違うだろ、七原は強いよ。」
「それは、お前がいるからだろ?」
七原は俺と出会う前から十分に強かだったじゃないか。
七原の強かさと俺はどう考えても無関係だ。
「七原はお前に守られてるから、強くあれるんだ。」
多分アイツはそんなこと自覚してないだろうけどな、と付け足す。
「需要と供給のバランスが丁度つり合ってるから、2人ともが強くあれるんだ。」
「そんなもんかねぇ?」
「そんなもんだろ。」
笑った。
何かが可笑しかったわけではないが、笑い合った。
「2人で何話してたの?随分楽しそうだけど。」
笑い声の響く教室に、七原が帰ってきた。
少し息が弾んでいるから、走ってきたのだろう。
「七原、お帰り。」
「お前と三村の話をしてただけだ。」
「惚気話してただけよ?」
「三村!!!!」
キミを通してみる世界は、とても温かで優しい色をしています。
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